辛気くさい話

このところ東京大学のグループによる論文捏造疑惑が話題になっておりますね。そもそもどんな論文なんだろー、とPubMedを検索してみましたが、渦中の教授と助手がauthorになっている論文は見付かりません。PubMedは疑惑の論文はpendingにするのでしょうか? 論文そのものは各ジャーナルのサイトにいったら問題なく見れるんですけどねぇ。ま、それらを読んだ(ほんとはちらっと見ただけ)ところで、捏造の有無なんかわかるわけもありませんが、こうした一連のストーリーを捏造で作りあげるとなるとそれこそ大変だろうに、という気がします。今のところクロだかシロだか決着はついてないのですが、教授は「実験は助手に任せているのでわからない」と言っているのだそうで、そいつはシロクロにかかわらずまずいんじゃないかと思います。かりにもcorresponding authorなんですから。「秘書が」っていうのに似てますよ。
それにしてもどうしてこういうことが起こってしまうのだろうか、と思うのです。自分がやってしまう危険はないのだろうか、ということでもあります。一流ジャーナルに載る論文を「作り」名声を得ることが直接の目的で偽データをでっちあげるというのは、私には考えにくいです。私の考える状況はたとえば、こういう結果が出ることが予想されるからやってみろ とボスに言われて実験し、本当はそんな結果が出ないにもかかわらず、予想どおりでした というデータを作ってしまうパターンです。ボスが相当にアグレッシブな人だったり、そういう結果が出ないと学位論文がまとまらないという状況にあったりすると、それをやってしまう誘惑がより強いんじゃないかと思います。つまり第一の動機はまず人間関係とか研究室の雰囲気にあり、一流ジャーナルに載るということは動機というよりはむしろ結果にすぎなかったのではないかと。もっともこれは最初の捏造に関する考察です。一度これをやってしまうと相当に敷居は低くなり、あとはウソの上塗りを目的として容易に同じことを繰り返すでしょう。
そこで自分にとっての教訓は、助手の立場でいえばボスに偽データで迎合しないということがありますし、他方センセーとしての立場では、一緒に実験をしている学生さんに「こうなるはず」ってのを過度に押しつけないってことかなぁと思います。さらには、彼らが出してくる結果をきちんと精査するということでしょうか。こう書くとなんだかひとを疑ってかかるみたいな感じですが、そういうのではなく、例えばひとつのいいデータで鬼の首でも取ったようにせず、別の実験データがそれを支持するか検討するといったことです。君はそれをやっとるかね といわれると辛いですが。
RNAiみたいな流行の先端にある研究は競争もあって大変なんでしょうね。私のようにすき間領域をやってると研究費がもらいにくくて不自由ですが、元来ヒネクレ者なのでこんなものかなとも思います。まあ変に注目されない分は腰を落ち着けて仕事をしたいものです。